７月のセレクトセールに始まる１歳馬のセリも終わり、当場では本格的に１歳のブレーキング（騎乗馴致）が始まりました。今年は例年より10日ほど早く開始し、すでに30頭近くの馴致を行っています。

　さて、トレセンで行われる調教の様子についてはテレビ等で見たことのある方も多いでしょうが、１歳馬のブレーキングではいったいどのようなことが行われているのかをご存知の方は少ないと思います。今回は、千代田牧場ではどのようにブレーキングが行われているのか、写真とともにご紹介致します。

　まずは腹帯に馴らすことから始まります。最初の２日間は厩舎の中で腹帯を締め、ウォーキングマシンに入れます。その次にロンジング。丸い馬場で１頭に対して２人がつき、コンタクトをとります。それから２本の長い手綱を使ってハミ受けの練習。これが最も重要なポイントです。このハミ受け馴致を失敗すると、後々騎乗者とのコンタクトがうまく行かず、大きなマイナス要因になります。デビュー戦でたまにコーナリングがうまくできず逸走してしまう馬がみられますが、その原因としてハミ受け馴致の失敗が十分に考えられます。これらの過程をクリアした馬は１週間ほどで大きめのロンギ場（丸馬場）に移り、騎乗を始めます。

　当場では馬の管理を担当制にしていません。どの馬も生まれたときから大勢のスタッフに触れられて育ちます。そのため馴致も非常にスムーズに行うことができるのです。生後２日目から欠かさず行われる朝夕の体温チェック、ブラッシング、そして厩舎と放牧地との往復で培われる人とのコンタクト、離乳後の新冠分場への移動など、あらゆる環境で育ってきた精神的な逞しさがあるのでしょう。

　一部の新聞記事にも載っていましたが、1000勝間近の藤沢和雄調教師が以前私に言ってくださった言葉があります。「競走馬を生産・育成しレースに勝つのは陸上競技のリレーと一緒。いかにうまくバトンタッチをしてアンカーにつなぐか。我々アンカーにバトンが渡された時点でどれだけ差がついているかで決まる。」

　師のおっしゃる通り、すべての流れがスムーズに行かなければ、１頭の競走馬が勝利を挙げることは非常に難しいのです。そのためには、生産・育成・最終的な仕上げ・厩舎―このラインが密接な関係にあることが重要です。当場では、出産シーズンには育成スタッフもお産を手伝います。つまり、繁殖スタッフだけでなく、育成スタッフを含めすべてのスタッフが、それぞれの馬を生まれたときから知っているのです。その中でも長年在籍するスタッフたちは、その馬の兄姉はもちろん、母や祖母の癖まで把握しています。そして何よりも馬と人との信頼関係が築かれていること。だからこそ個々の癖をうまくコントロールすることができ、馬へのマイナス要因を最小限に抑えることができるのです。

　ブレーキングは10月中旬まで続きます。馬場入りして、右へ左へフラフラしながら走る仔、秋風で舞い散る木の葉に驚き暴走する仔。毎年いろいろな仔がいて危険も伴いますが、スタッフ一同気を引き締めて取り組んでいます。もちろんすべての馬が簡単にデビューできるわけではありません。先日の新潟２歳Ｓでは当場のフローライゼが２着と、今後を期待させる走りを見せました。２歳夏に行われるローカルのステークスは、育成場の勝負です。１歳の夏からの積み重ねが大事。来夏のデビューを夢見て馬も人も一心同体の気持ちで調教を進めています。