牧場こぼれ話・2009

2009年8月1日 Best Luck by 飯田正剛  第8回

 今年のセールもご購買ありがとうございました。特にセレクトセールの初日となった13日と3日目の15日はひどい雨だったにもかかわらず、たくさんのお客様がいらして下さいました。心から感謝いたします。そして、千代田牧場は、お客様により楽しく、くつろぎながら1歳馬たちを見ていただきたいと思い、今年の初日にはホスピタリティーテントを厩舎脇に設けました。雨の中、そのテントがお客様に喜んでいただけたのではないかと、密かに「テント大正解!」、と自画自賛しているのですが・・・。俳優の小林薫さんも立ち寄って下さいましたが、いかがでしたでしょうか?

 
 __  一目で千代田牧場とわかるこのテント。見かけたらぜひ立ち寄ってください。  小林薫さんと

 日高に場所を移したセレクションセールでも、21日に上場した2頭の馬たちを、これまでお付き合いのなかったオーナーにお買い上げ頂きました。嬉しいことです。千代田牧場を信頼して夢を買ってくださったお客様たちを失望させることのないよう、ベストを尽くして行きたいと思っています。改めて、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、ご購買頂いた馬たちは、競走馬になるまで再び千代田牧場でお預かりすることになります。1歳馬たちは立派な競走馬となるための調教を始めます。育成段階に入るわけですね。千代田牧場は生産牧場ではありますが、育成も引き受けます。そのための施設も他の牧場に負けないものを備えています。
 少し自慢させて頂くと、坂路に屋根が付いているなんて、今は珍しいことではありませんが、日本で屋根付坂路を作ったのは千代田牧場が最初なのです。そうです、私が初めて屋根を付けたのです。その後、BTCや大手牧場の方々が見学にみえ、次々に屋根付坂路を導入していったのです。しかも、千代田牧場の坂路は400メートルですが、ただの400メートルではありません。駆け上がってくると、馬たちはその脚で、一周1000メートルのダートコースに進入できるようになっています。ですから、急ブレーキをかけて腰を痛めたりすることがないのです。
雪に包まれた冬景色の坂路。屋根付きだから、真冬でも迫力たっぷり、しっかりとした調教が行えます。 
 3頭による併せ馬でも余裕の幅を持つ大型坂路  坂路を駆け上がり、そのまま1000mダートコースへ

 では少しだけ、千代田牧場の育成について知って頂きましょう。
 私の記憶の中では、昭和30年代後半には千葉の牧場で、北海道から来た1歳馬を預託して鞍付け馴致を行っていました。その頃から府中の大御所・藤本厩舎、中山の古賀厩舎などの馬を育成し、現在調教師をされている池上昌弘師が初勝利(昭和42年夏の新潟)を挙げたフシミ(牝 鹿毛)もそのうちの1頭です。

 当時、千葉には1周が600メートル弱の小さな馬場しかありませんでした。それでも私が大学を卒業した昭和54年以降も、ヒロノスキー(オークス3着)、スカッシュソロン(安田記念)、ビクトリアクラウン(エリザベス女王杯)など輩出し、育成・休養施設として十分活用されていました。これらの活躍馬のおかげで、名伯楽・稲葉幸夫、二本柳俊夫両調教師の信頼を得て、多くの良血馬を預けて頂きました。その中には、昭和58年「二本柳の3羽ガラス」と言われた当時のせり高額取引馬3頭ブルーダーバン、ミヤコオーダス、デアリングパワーもいました。二本柳師から初めて預託馬として預けられたのがこの3頭で、「煮て食おうと焼いて食おうと兄貴(私、飯田正剛のこと)の好きなようにしてかまわん」と言われました。そして3頭全てを19頭立てのダービーに出走させることができ、多くのオーナー、トレーナーから信頼を得ることができました。このことは20代の私にとってかけがえのない大きな財産となりました。千代田牧場が、生産界において今現在のポジションにあるのも、この馬たちのおかげといっても過言ではありません。
 
 ちなみに当時の私はもちろん独身で、現在より20キロ近くも軽い体重でバリバリ攻馬をしていました。信じて頂けないとは思いますが…(笑)。

 その後、昭和59年夏に先代場長の稲葉安夫さんが引退し、私が場長として北海道に移り住みました。冬は千葉、春先からは秋は北海道という生活パターンの始まりです。北海道ではどうしても大きな馬場で乗りたかったので、父に頼み、トウショウボーイの仔(母スカッシュソロン 競走馬名カシマラージャ)がセリで売れた資金を元に(実際にはその3倍かかりましたが…)、平成元年、1000メートルのフラットコースを作りました。そこに増設したのが上述の400メートル屋根付坂路です。

 1000mコースの内はイヤリングたちが草を食む放牧地になっています。

 ご購買頂いた馬たちの大半は、競走馬になるまで千代田牧場で過ごします。ブレーキング(馴致)は10月末からというところが多いのですが、当場ではお盆明けから。ですから雪が降ってくる前、12月には15−15くらいを始められるようになっています。もちろん、馬によってはゆっくり仕上げたほうが良い馬もいますが、早い仕上がりの馬たちは15−15をこなせるようにしています。

 美浦や栗東の厩舎では、水曜日と日曜日に速いところを行きますが、千代田牧場では火曜日と金曜日に速めの調教を行います。そして日曜日はお休み。でも、休日もパッドクでの放牧とウォーキングマシンでの運動はさせています。休日だからと、馬たちが馬房に入りっぱなし、なんてことは決してありません。

 昨年の3歳馬について言えば、11頭が他の施設で育成されました。そのうち年内にデビューしたのは2頭だけ。ほとんどが未出走あるいは未勝利でした。
当場の育成馬たちは、入厩後一週間でゲート試験に合格できるように調教されています。早い馬で5日、遅くても2週間で合格しています。今年もしっかり実践されています。ゲート試験に合格して、はじめて“競走馬”です。そのゲート試験に合格するまでが私たちの仕事だと思っています。その後は調教師と厩舎スタッフにバトンタッチ。私たちは生産馬たちの活躍を静かに熱く心から応援し、見守る日々が続くのです。

 千代田牧場育成馬が高い勝馬率を誇る理由を少しご理解頂けましたでしょうか。生産から育成・調教までを一貫してできる強みがここにあります。

 セールは終わりましたが、プライベートでの売却についての問い合わせ、ご相談にはいつでも応じさせて頂きます。育成も千代田牧場に任せて安心ですよ。