牧場こぼれ話・2009

2009年12月1日 Best Luck by 飯田正剛  第12回

早いもので、このコラムの連載も一年になろうとしています。それなりに評判も良く、少し照れながらもうれしく思っています。

さて、2009年の終わりに当たり、今年を振り返ってみるのも悪くないですね。何が一番心に残っているかと言えば、つい最近のことになりますがノベンバーセールでの大きな買い物でしょうか。トピックスでもお伝えしています繁殖牝馬、レディジョアンを160万ドルで購入したことです。彼女がいかに優秀な競走馬であったかは、成績一覧を見ていただければ納得してもらえると思いますが、そのレースぶりもすごい!どこからでもレースができる強い勝ちっぷりには惚れ惚れしました。馬体も良し、レースぶりも文句なし。

彼女のおなかには現在、ティズナウの子が入っています。しかも女の子。生まれたらその子を日本に連れてきます。レディジョアンはケンタッキーの牧場にいて、アメリカで千代田牧場の次世代を担う子どもたちを産んで欲しいと思っています。

レディジョアン競走成績 11戦6勝2着2回3着2回
No. 年月日 レース名 着順
米国繋養先のTaylor Made Farmにて
1 06.09.20 新馬戦 3
2 06.10.11 未勝利戦 1
3 06.10.29 ポカホンタスS-G3 3
4 06.11.25 ゴールデンロッドS-G2 1
5 07.05.01 OP戦 1
6 07.06.02 ドッグウッドブリーダーズカップS-G3 1
7 07.06.30 マザーグースS-G1 2
8 07.07.30 バンシーブリーズS-L 1
9 07.08.18 アラバマS-G1 1
10 07.10.07 スピンスターS-G1 2
11 07.10.27 BCディスタフ-G1 4

ちなみにこの馬の社長のお気に入りは雰囲気がウオッカに似ているところ。
左がレディジョアン、右がウオッカ。いかがでしょうか?

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「ある牝馬の物語」その2・・・たくさん食べて元気いっぱいな女の子

トロカの初子である立派な体格の女の子は、育成のためケンタッキーの牧場から冬も暖かいフロリダへと運ばれました。9月中旬のことです。
 翌年2月3日のメールには、フロリダで調教されている彼女の様子が、こんな風に書かれています。
「タフな心の持ち主ですね。自己主張も激しいし、少々気難しいところもあります。典型的なジャイアンツコーズウェイ産駒とも言えますが、調教に関しては実に前向きです。現在、1800mのギャロップを、楽しみながらこなしています」
 3月にはゲート練習も順調に進み、いよいよ日本にやってくることになりました。4月15日にレキシントンを出発、シカゴを経由し16日の朝、彼女は成田空港に到着したのです。

検疫後、北海道にやってきた彼女は、牧場の育成スタッフによってさらに乗り込まれました。千代田牧場でのライダーとしてのキャリアはまだ1年半と短いものの、それまでの16年間を競馬場で過ごしたという河野(かわの)調教主任は、彼女のことをこんな風に言っています。
「一言で言えば、“今まで乗ったことのない馬”」
つまり、そのくらい背中が良いということなのです。レースのイメージについては、
「先行してそのまま押し切る。お父さんがジャイアンツコーズウェイでしょ、だからパワーがあって、先行するスピードがあって、性格はきついけど、ジョッキーの指示には素直に従うから、しっかりと直線を駆け抜ける、そんな走りができると思います」
 もうひとり、馬には乗らないけど、脚元や歩様のチェックはプロである平田育成主任の一言は、
「見栄えのする馬」。
牧場のスタッフ全員の期待を背に、彼女は二ノ宮厩舎へと送り出されました。

11月も下旬、美浦の朝はすっかり寒くなりました。寒いから馬たちは元気いっぱい。そのなかでも、二ノ宮厩舎に入ったトロカの子、ソングオブプライズは一段と元気です。
「6時45分に厩舎の前で乗って、南馬場へ出かけます」
佐々木調教助手を背にした彼女は、首を上下に振り、ぴょんぴょんと跳ねながら、前を行く5頭の後ろについて進みます。前を行くどの馬よりも彼女は大きい。500キロを超えるグラマラスな馬体は、角馬場にいても、Aコースにいてもすぐに“彼女はあそこにいる”と見分けられます。
「柔らかいでしょ、動きや身のこなしが。それに俊敏ですよ」
と二ノ宮調教師からうれしいコメントです。

でも奥野厩務員は動きの柔らかさといったことを、手放しで喜んでもいられません。なぜなら彼女が元気すぎるからです。エネルギーが有り余っているのか、大人しく歩こうとしないし、運動の間は常に敏感に何事にも反応するのです。だから油断は禁物。
「といっても、危ないとか神経質ということではないのです。感じやすいというか・・・。ともかく大きくて元気。まだまだ体をもてあましているんですよね」
 そうこうするうちに運動も終わり、厩舎に戻ってきた彼女。洗い場に立った彼女は汗びっしょり。隣にいる子と比べたら、まるで彼女だけ“夏している”のです。
「どんどん汗をかいて、体がしぼれると良いですね」

うるさくて元気いっぱいなのは運動の時間だけ。洗い場でも馬房の中でも、実にのんびりと大人しいのです。体を洗ってもらうと、次は食事です。飼い葉桶に顔を突っ込んだ彼女。すっかり食べてしまうまで、どんなことがあっても顔をあげないそうです。ひたすら食べることに集中。
「助かります。運動中にうるさいのは、いらいらしていることもあるのです。そんな風にぴりぴりしても食欲は落ちません。いつもしっかり食べてくれます。食べてくれないのが一番つらいですから、彼女はいい子です」

どうやら12月の中山開催でデビューできそうです。スピードで押し切るのか、距離があったほうが良いのか。まだよく分かりません。ただ、「この子は走る!」と厩舎の誰もが思っています。

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今年もあとわずか、来年も元気いっぱい、皆様に夢を持っていただけるよう、スタッフ一同とともにがんばります。