ホーム>こぼれ話 >Best Luck by 飯田正剛

2010 #04


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 今月は私のことを藤澤さん同様、「専務」と呼んでくれる国さんこと国枝栄調教師について書きたいと思います。とにかく真面目な人です。理論派です。知的です。それでいて、冗談飛ばしながら人をおちょくるのが好き。競馬に対しての愛は熱く深く、語り始めると少しムキになる傾向も。何年か前のこと、ゲートの悪い馬に関する主催者側への要望について、話をしてくれました。

 「マチカネイサリビという馬はゲートの中で腰を落としてしまう。我々がいくら手を尽くしても、ジョッキーが尻尾を持っても、どうしても直らない。いつも斜め上に飛び上がりながらスタートする。これでは全能力を発揮できないでしょ。だから、何か手立てはないか、と考えたのがゲートボーイ。アメリカのレースではお馴染みだよね。ゲートの中で馬を扶助してビシッとスタートを決めさせる。マチカネイサリビにゲートボーイが付いていたら、もっともっと結果を残せたはず。ゲートのトラブルは全ての関係者にとって不利益になることだし、特に馬と騎手は制裁を蒙るわけだから、何とか手立てを考えて欲しい、と主催者に掛け合ったわけ」

 この問題に関してはいまだ交渉中との事ですが、馬のためになると思えば考えられることは何でもやるという熱心さと情熱が、国さんの最高の持ち味なのです。

 その国さん、藤澤さんと同じく国際派。英会話はばっちりだし、何せ、ドバイ奨学生の第一号としてイギリスに研修に行っているのです。
「1984年のこと、もう四半世紀前になっちゃうのか・・・。ボクのキャリアの転機となった出来事だね、ここからスタートした訳だから。ともかく全てがためになった」 この研修、JRAからの要請で出かけたようですが、やはりその“褐色の肌”が“ドバイ”にぴったり、ということだったからではないかと私は思います。国際免許を取りに行った国さん、その肌の色とエキゾチックな容貌のおかげで、フィリピーナからタガログ語で話しかけられたらしいです。とても日本人には見えなかったということでしょう。国際派ならではのエピソード(!?)。

 国さんとの出会いは、千葉県冨里の馬具屋でした。国さんが調教助手になった頃は、まだ美浦に馬具屋などなく、千代田牧場の近所にある馬具屋まで来ていたのです。そこで顔見知りになり、その後、私が美浦トレセンに出入するようになってさらに親しくなりました。私立大出身の獣医である私と違い、国さんは国立2期校の馬術部出身の獣医。今でこそ大学出や獣医の調教助手は美浦でも珍しくありませんが、当時はまだいませんでした。国さんが第一号でしょう(アレ、第一号好き!?)。年も私とひとつ違い。そんなこんなで私と国さんは生産者と調教師、あるいは馬主と調教師というより、楽しい馬仲間なのです。

マザーズウィルの仔メロディータイムの初勝利(平成8年)。ニヒルな表情は今も変わりません。

 国さんが開業すると、すぐに千代田の馬を預かってもらいました。国枝厩舎の6勝目はうちの馬、マザーズウィルです(母馬が死んでしまったので、“母の思い”という名前にしました)。千代田牧場は終始一貫、国さんを応援してきました。その後の活躍は皆さんもよくご存知だと思います。あっという間に500勝調教師となり、雲の上の人になってしまいました。藤澤さんとも大変仲が良く、ふたりともそろってモチベーションの高い人達。だから、馬の話が楽しくできて、馬を預けて安心でもあるのです。

 国さん知っていましたか? 国枝厩舎500勝のうち50勝以上は千代田牧場の馬たちが貢献しているのです。タイガーモーションとか、ハートオンウェーブとか、この2頭は外国産馬ですが、そういえばこの年、私が預託しようとした外国産馬は上記の2頭を含め3頭いました。いつもならバランスよく、1頭ずつ違う厩舎に預かってもらうのですが、この時は2頭とも国枝厩舎に行ったのです。

計8勝を挙げたドリームカムカム(平成16年)。国さんの髪の分け目が左から右に変わりました

 時差のあるアメリカのセリは私にとっては真夜中のテレフォンショッピング。
「国さん、栗毛のグランドスラムの牡馬、どう思う?」
たまたま現地に行っていた国さんに聞いてみました。
「専務、いいと思うよこの馬」
ということで買ったのがタイガーモーションでした。
「専務、あの馬、もう日本に着いている?」
「到着しているけど、国枝厩舎には違う1頭がいくよ、2頭はちょっと・・・」
と言ったのに、
「専務、気にしない!気にしない!2頭ともうちの厩舎でやるから」
なんて言いながら、2頭とも連れていってしまいました。お陰で他の調教師からは
「なんで、国枝厩舎ばかりに外車なの? うちも外車欲しいな」
なんてさんざん言われてしまうこと。これも国さんの憎めないとぼけた一面が見えたエピソードです。

 さて、国さんはこれまでに数々の重賞を勝っています。しかし、なぜか千代田牧場の馬では勝っていないのです。どうして?
ヒラボクエクセルの新馬勝(平成20年)。オシャレな国さんは帽子を愛用するようになりました
でも今年、遅まきながら千代田-国枝コンビに重賞、しかも一気にG1奪取のチャンスが訪れようとしています。国枝厩舎で活躍したドリームカムカムを母に持つディープインパクトの牡馬です。国さんも「これはすごい」と一目ぼれ。そしてもう1頭、ブライアンズタイムを父に、重賞2勝を含む4勝を挙げ最優秀2歳牝馬に選ばれたピースオブワールドを母に持ち、やはり国さんが「すごい!」とうなった男の子(ピースオブワールドの長男)。この2頭に加えディープインパクトの牡馬がもう一頭、計3頭の精鋭たちが千代田から国枝厩舎に送られます。オーナーはヒラボクでおなじみの平田牧場さんと、後の2頭は里見会長。一気にクラシックへと夢は広がります。皆さん、この子たちのデビューを楽しみにしていて下さいね。

 ところで、第2回中山開催の最終週は、千代田牧場生産の4頭が重賞に出走しました。フラワーカップ出走のベストクルーズは4着、スプリングSのバーディバーディは11着でしたが、中京のファルコンSはエイシンホワイティーが優勝、2着にも千代田牧場生産のトシギャングスターが入り、なんとワンツーフィニッシュという結果。お気づきでしょうか。この4頭、いずれも栗東の厩舎所属なのです。国さん、今年の3頭でクラシックに行けなかったら、次はどうしようかな、なんて考えたりもするのです・・・。

 信頼してます。今年こそ、一緒にでっかいレースを勝ちましょう!そして一緒に紅白の手綱を握りたいものです。これからもよろしくお願いします。 

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 さて、来月のコラムはどなたにご登場して頂きましょうか。私のことを「○○と呼ぶ人」シリーズなら、私のことを「あんた」と呼ぶ美浦のとある調教師。でも栗東にも素敵な調教師がたくさんいますから、そろそろ西に飛ぶのもいいですね。どうぞお楽しみに。 

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