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2010 #10

〜シンガポールに住む謎のジャパニーズ・・・大谷正嗣氏〜

ドバイワールドカップの当日にモハメド殿下と。右端が大谷さん。その隣に私。
 北海道静内生まれ静内育ちの神童。北海道大学を卒業すると世界有数の商社に勤め、オイルトレーダーとして活躍。独立後、さらなる活躍で成功すると、日本を離れ、シンガポールに移住して15年余。シンガポール競馬では、ステイゴールド産駒のエルドラドでG1ゴールドカップを連覇(2008、09年)という偉業を達成し、日本では日高で牧場経営に参画。昨年、ドバイの王族とともに、初のJRA海外居住馬主として登録認可されました。世界中セリのあるところならば、どこへでも馬を捜し求めて出掛けて行く、名実ともに国際派のホースマン。
以上が、今回のコラムの主役、大谷正嗣氏のプロフィールです。
 ある人は大谷さんをこんな風に表現します。
「誠実そうな目によく見るとかわいらしい口元、知的な風貌に日本人離れした雰囲気を感じさせる魅惑的な小麦色の肌。超高級スーツがよく似合うスリムなボディーには、男の色気も漂っている。ウフフ」
・・・ウフフってなんだ!?・・・。でも私は知っています。時任三郎似の大谷さんが一番似合うのは、ユニクロのマフラーであるということを・・・。

キーンランドでは調教師陣も交えて食事。
手前が私。その隣が大谷さんです。
 「飯田さん。あなた、結構嫌われてるでしょ? その態度だもの、嫌われるよね。」
・・・言ってくれますねえ、ずばずばと。これでもおばさま方と一部の男の人にはモテるんですが。すでに4年のお付き合いになりますが、かわいらしい(?)口元から発せられるこの辛口ぶりは変わりません。私に対してだけじゃないんですよ。調教師にだって面と向かって「あなた、腹黒いでしょ」と言ってみたり、お酒の席で「今日は暴れないの?」と言ってみたり・・・。こんなにストレートにものを言っても憎まれない不思議なキャラクターの持ち主なのです。

 「僕は飯田さんのそんなところが、決して嫌いではありませんけど」
大谷さんから嫌われていないと知って少しほっとしました。こんな風に忌憚のない意見を言ってくれる貴重な友人、それが大谷さんです。私のようなワイルドな人間と“poised & highly intelligent”な大谷さんが仲良しなのはなぜでしょうか。私が考えるに、付和雷同体質の日本社会の中で、成行きや空気に流されないように踏ん張っている私のジタバタ振りを、シンガポールに暮らす大谷さんが面白いと感じているからかな、なんて思うのですが、当たっていますか?

ドバイで優雅にラクダを乗りこなす大谷さん。
 大谷さんと初めて会ったのは2007年のこと。大谷さんが千代田牧場の繁殖牝馬を買って下さいました。それ以来、意気投合して、我が家でバーベキューをしたり、乗馬をしたり、シンガポール育ちの二人のお嬢さんに餅つきを体験してもらったりと、家族ぐるみの付き合いをさせてもらっています。3年前には大谷さんのいるシンガポールへ、私にとって初めてとなる家族一緒の海外旅行(私のパスポートには成田-シカゴまたはオーストラリアのスタンプしかありませんでした)。奥様のユキさんもとても素敵な方で、楽しい時を過ごさせて頂きました。

 大谷さんはいつも話題に事欠かない非常にスマートな方です。毎年、キーンランドのセールでご一緒するのですが、飲んだ翌朝もきっちりと前日のセリ結果をまとめて、分析されています。とにかく勉強熱心。成功されるのも納得です。3年前のキーンランドセプテンバーセールでは、GI7勝を挙げ、年度代表馬にも選ばれた名牝アシャドの妹を二人で購入し、名門T.プレッチャー厩舎に預けました。名前は大谷さんの案でSweet Mariage. 脚部不安のため、不出走に終わりましたが、楽しい夢を見させてもらいました。

セリ場で真剣に馬を見る大谷さん。
 セプテンバーセールでは毎年、5日間の滞在中はセールに上場される馬たち数百頭を漏れなく見て回ります。セールが始まる3日目からは厩舎とセール会場を往復し、朝から晩まで上場馬たちを眺めているのですが、今年は種馬を見るため、その間に3つの牧場を訪ねました。その中のひとつ、Gainsway Farmは私にとっては30年ぶりに訪れる懐かしい場所です。オフィスの裏口から長い石畳を抜けると、種牡馬たちの住居である4棟の白い大きな厩舎に出会います。その古い佇まいは歴史そのものであり、瀟洒な建物は30年前に研修目的で訪れた時と変わらず、今でもモダンな雰囲気を漂わせています。Vaguely Noble、Icecapade、Blushing Groom、Riverman等、歴史に残る名馬たちがいた当時と何も変わっていません。彼らが暮らした厩舎には今、Orientate、Corinthian、Tapit、Mr. Greeley、Bird Stoneら世界有数の種馬たちがいます。Orientateは昨年のファシグティプトンの繁殖セリで購入したLady Joanneの父です。米国の馬については11月のノベンバーセールの後にでもまたご紹介しましょう。さて、帰ろうかなと厩舎を覗くと、馬房のAfleet Alexが「僕はいいの?」と言ったような気がしたので、彼にもご登場頂くことに。30年前の思い出に浸るとともに、千代田牧場も負けてはいられない、と気持ちが引き締まった嬉しいひと時でした。

 
オーストラリアのセリで。大谷さんと私。
大谷さんの相馬眼の素晴らしさといえば、前述のエルドラドもそうですが、実は今、日本で走っている私の米国生産馬で、現在5勝しているオープン馬ブライドルアップは、元々は大谷さんが買って下さった馬でした。1歳時にセプテンバーセールで主取りになったのですが、そこにいた大谷さんが「日本の競馬に合いそうだ」と判断したのです。しかし、その時点では日本での馬主免許が下りていなかったため、2歳トレーニングセールで売却し、栗東の中竹調教師の目に留まって、日本へ輸入されたのです。  また、昨年のオーストラリアのセリで購入されたIntencionという3歳牡馬が、10月9日の豪GIコーフィールドギニーに出走します。相馬に関して、天性のセンスがあるのでしょうか。

 大谷さんは、実際馬の世界へ入ってまだ5、6年。血統、馬学、その他諸々よくここまで知っているなといつも感心させられます。そして人脈作りの素晴らしさには卓越したものがあります。日本の有力生産者はもちろん、普通なかなか入厩できない藤原英昭、角居勝彦、久保田貴士厩舎などとも、すでにしっかりとしたコンタクトを作り上げています。やはりこれも大谷さんの持つ人柄(オーラ?)なのですね。

 大谷さんはこれからますます、競馬の世界に深入りしていくのでしょう。
「最終目標はなんですか?どこまで行くつもりですか?」
「実によい質問ですね」
と真剣な顔ながら答えはありませんでした。でも、頭脳明晰の上、人にも愛されている大谷さんのことですからきっと夢は叶います。その夢がどんなものであろうとも。

 では、すぐにまた秋も深まった11月のキーンランドセールでお会いしましょう。

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