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2010 #11

〜これからも弟分としてよろしく・・・須貝尚介調教師〜

 2008年の桜花賞、千代田牧場は3頭出しでした。エイムアットビップ、ベストオブミー、そしてルルパンブルー。私は期待を胸に張り切って阪神競馬場に出かけて行きました。そして、その日、角居調教師に紹介されたのが須貝尚介調教師です。尚介と口をきいたのはそれが初めてのこと。顔は知っていましたが、尚介が騎手だった頃はまったく縁がありませんでした。千代田牧場の馬に乗ってもらったことは無いし、どちらかと言えば、「そんなに乗れるジョッキーじゃあないよね・・・」みたいな印象ですかね。以前は栗東にも、私は出来るだけ顔を出していましたが、朝の攻め馬を見ていた時、調教スタンドの食堂で一人うどんを食っているヤツがいて、「あれ誰? え、須貝尚介なの」とか。レースの記憶と言えば1999年に小倉記念に優勝したアンブラスモアで、“やたらぶんぶん飛ばすやつ”みたいな、なぜかあまり良いイメージがなく、ほとんど眼中に無い存在(ごめん)だったのです。じゃあ、なぜ、このコラムで取り上げちゃうんだよ、ということなのですが・・・。

おいしいモノとこの笑顔には負けますよね〜
 角居調教師が紹介してくれた日、尚介は名刺をくれました。 “JRA調教師 須貝尚介”  ふーん、なるほどね。と、ありがたく頂戴しましたが、こちらからは名刺を渡しませんでした。そしたら後日、後輩のO調教師と名刺交換をしているところを見られ、「社長、僕にも名刺をください」と明るくストレートにお願いされて、渡しちゃいました(笑)
 無邪気な笑顔と気配りで、ホストでも十分に食っていける、尚介はそのくらい甘え上手なのです。名刺を渡した後は、度々北海道の牧場にも顔を出してくれましたし、函館に滞在している時など、「新鮮なイカが手に入ったから」と、わざわざ車を運転して持ってきてくれたり、「おいしい肉が手に入ったので」と、これまた届けてくれたり。いやはや、私はおいしいものに落ちる、ってわけではありませんが、うれしいじゃあないですか、こういう気遣いって。(男は胃袋で落ちる、女は・・・?)

 そして、あれは中山競馬場でのブリーズアップセールで顔を合わせた時のこと。尚介に、千代田牧場とお付き合いのあるオーナーを紹介し、その方の馬を預かってもらうことになったのです。その馬が千代田牧場から須貝尚介厩舎への1頭目となりました。すると、その後すぐに行われたひだかトレーニングセールで、尚介の勧めに応じたオーナーが千代田牧場の馬を購入して下さいました。それが今、尚介が管理する3歳のファイブイーグルという馬です。

飲んでばっかり?だけど、
まわりの人への気遣いは素晴らしい。
  尚介は面倒見の良いヤツですが、反面、スタッフにとても厳しい面があるそうです。見たわけではありませんが、頭にくると靴を投げるのだとか。履いていた靴を脱いで「このやろう、何考えてんだ、このドあほ」みたいな感じですかね・・・。しかも投げた後に「靴、拾って来い」ときたもんだ。
 思い入れが強く、気持ちがぐぐっと入る、要するに熱い人間なのです。それでなくては馬と係わっていけません。・・・だから私と気が合うのかな!?
 今は毎朝、坂路脇の調教スタンド(といっても“はと小屋”と呼ばれている小屋)で橋口、音無、矢作、平田、友道といった名トレーナーにいじめられつつ揉まれながら、うどんを食べる暇もなく、馬をひたすら見つめているそうです。

 千代田牧場は今年、4頭の2歳馬を須貝尚介厩舎に送り込みました(クリーンエコロジー、ボウシュウローズ、ウイングオブピース、エイムアットビップの妹プラチナアリュール)。こんなこと、めったにありません。通常、各厩舎に1頭、入っても2頭くらいのものです。それも4頭とも決まったのは今年に入ってからのことで、かなり調教が進んだ4月から5月頃の話。
「尚介、この馬、持って行くか?」
「え、いいんですか?こんな良い馬をいきなり預からせてもらって・・・」
「ゲート練習は十分やっているから、すぐ試験受けられるよ」
*     *     *     *     *
「社長、ゲート試験、一発で合格しました」
「ほら、うちの馬は違うって言っただろ」

 
クリーンエコロジーの新馬勝
オーナーにとっても記念すべき初勝利でした。
4頭のうち、最初にデビューを果たしたクリーンエコロジーは新馬勝。尚介にとってはこれが初めての新馬勝でした。その後、新潟2歳Sでは1番人気に推されながらも負けてしまいましたが、デイリー杯2歳Sでは4着と健闘しました。2番目にデビューしたボウシュウローズはこれまでに3戦して3着、4着、3着。尚介も私も期待の1頭です。
 3番目にデビューしたのはウイングオブピース。10月23日、京都の新馬戦に1番人気で出走しました。尚介の厩舎から、私の勝負服で走る初めての馬です。その日、東京競馬場にいた私に、尚介はこまめに電話をくれました。
「社長!状態はいいですよ!」
「おお、尚介。うん、今パドック見てる。いい仕上がりじゃない。人気になっているけど、勝てそうかな? まあ、頑張って下さい」
*     *     *     *     *
「いい感じで行ったんだけど、直線思ったより伸びなかった・・・」
「ふーん、そうなんだ、仕方ないね。今度はダート使ってみようよ。次は何とかなるといいね」
勝ったら尚介のこと褒めちぎるつもりでしたが、それは次の機会にとっておきましょう。

 これだけの馬を預けるのは、尚介の人間性と腕、そしてお願いしたことは即やってくれる実行力に惚れてのことです。頼みましたよ、ホント。
 姉3人の末っ子長男として育った私にとって、角居調教師、貴士、芳人(これまでのコラムを参照)をはじめ、多くの年下の調教師たちが本当の弟のように思えるのです。これからも“弟分”として、長いお付き合いが出来ることを願っています。


P.S. ジョッキー時代は減量に苦しみ、テレビ番組「料理の鉄人」を見ながら、自分の指をかじっていたという尚介。おかげで料理のセンスが磨かれ、今ではオリジナルのレシピ(しかも1日ワインに漬け込むという手の込み様)で肉を焼いたりするのだとか。今度是非、得意のフレンチをご馳走して下さい。楽しみにしています。

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