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2010 #12

〜2010年の終わりにビッグなプレゼント・・・Million Seller〜


 2010年11月5日、ケンタッキー州ルイビル、チャーチルダウンズ競馬場。午後4時、第5レースを前に、女性ヴォーカリストが力強くアメリカ国歌を歌い上げると、いよいよ、ブリーダーズカップ・ワールド・サラブレッド・チャンピオンシップのスタートです。第一弾は “Breeders’ Cup Marathon” ダート2800m。このレースに私の馬、ミリオンセラーが出走しました。

1歳の頃。米国Taylor Made Farmにて
 昨年3月のコラムで、私が海外で所有する繁殖牝馬について触れました。1991年、初めて海外に送り出したのがタレンティドガール、ブレイブウーマン、そしてリーディングロールの3頭。イギリスはニューマーケットの美しい牧場、チバリーパークに滞在させました。
 2002年、今度はアメリカ、ケンタッキー州レキシントンの牧場、テイラーメイドに置いたのがミリオンセラーの母ミリオンギフトです。ミリオンギフトを手に入れた経緯は昨年3月のコラムにも書きましたが、とにかくどうしても欲しかった血統で、2003年には念願だったA.P. Indyの牡馬が生まれました。その仔は翌年のキーンランド・セプテンバーセールで100万ドルの値がつき、母名の通りMillionのGiftをくれましたが、残念ながらその後、オーナーの牧場で事故死してしまいました。
 そして2006年、ミリオンギフトは再びA.P. Indyの仔を産みました。とてもきれいな女の子で、私は彼女をミリオンセラーと名付け、フロリダで育成した後、メリーランド州のグラハム・モーション厩舎に送り出したのです。

 デビュー戦は彼女の生まれ故郷、ケンタッキー州レキシントンにあるキーンランド競馬場。2008年10月16日のことです。オールウェザートラックの1400m戦で2着でした。2戦目はブリーダーズカップの舞台となったチャーチルダウンズの芝1700mでやはり2着。「これはいける」と思ったグラハム調教師は、ミリオンセラーを西海岸のサンタアニタへ遠征させますが、2009年の1月から3月は、3戦して着外、着外、3着とパッとしません。

 「能力があるのは確かなのに・・・」とグラハム調教師は頭を抱えながら地元メリーランドに戻り、6戦目をヴァージニア州にあるコロニアルダウンズのアローワンス戦(一般の条件戦)に決めました。そして2009年6月13日、芝のマイル戦で、ミリオンセラーは待望の初勝利を飾ったのです。

 彼女は孝行娘です。これといった問題も抱えず、長い休みも取らず、元気に調教をこなし、レースを重ねていきました。芝で初勝利を挙げたにもかかわらず、8戦目にサラトガ競馬場のダートで2着にきた後は、「芝でもいけると思うけど、ダートのほうがいいのかなあ」と調教師と一緒に頭を抱えたこともありました。

デラウェア競馬場で、
待望のステークスウィナーとなりました
 また彼女は運の強い馬でもあります。2勝目は今年の1月18日、ローレル競馬場でのダート戦でしたが、ひどい雨が数日続いていたせいで、ミリオンセラーのレースの後、残り2日あった開催を含め、全てのレースがキャンセルになりました。彼女の運の強さというより、どちらかといえばオーナーの運の強さ(つまり私)、なんていう人もいましたが・・・ともかくラッキーでした。

 「飯田さん、ミリオンセラーって飯田さんの馬だよね。レース見たよ」
と、東京競馬場のオーナー席で声をかけられたことがありました。なんと、中山馬主会のご一行がニュージャージー州のモンマウス競馬場を訪ねた時に、ちょうどミリオンセラーが3勝目を挙げたのです。ミリオンセラーのレースを日本の方々にも見てもらえたなんて、すごくうれしいです。
 そして、10月11日、デラウェア競馬場で待望のステークス勝ちを収めました。繁殖としての勲章を手にしたのです。そのレース振りはまるでゼニヤッタ、と言わせてください(笑)。後方から一気の追い込みを決めました。

 その後、グラハム調教師から「ブリーダーズカップ・マラソンだったら、距離的にはチャンスがあるかもしれない。エントリーしてみませんか?」
との打診があったのですが、そのときの私の第一声ときたら

「え?どこのブリーダーズカップ???」

本当にあのワールド・サラブレッド・チャンピオンシップとタイトルのつくブリーダーズカップだなんて考えてもいなかったのです。今年の開催場チャーチルダウンズはキーンランドのセリ場からも車で行ける距離。ちょうどセリには行く予定だし、じゃあ、行ってみようか?という感じで出走を決めました。

当日は陽も落ちて、今にも雪が降りそうな寒さでした。そんな中、パドックには各国の国旗に交じって日の丸。出走を決めたものの、ミリオンセラーがどこまでついていけるか、正直私は心配でした。ですが、たくさんの顔見知りの関係者が「イイダサン、ベストラック」と声をかけてくれ、こんなこともオーナーブリーダーとして一生に一度の経験かもしれないと思うと、感激が込み上げてきました。

Frank Taylorと

結果は出せませんでしたが、このレースを最後にミリオンセラーは現役を引退します。繁殖として、これからも私の孝行娘であり続けてくれるでしょう。お世話になった厩舎関係者の皆様、ありがとうございました。

 ミリオンセラーに似た美しい仔が、いつか日本で走るかもしれません。日本の皆さん、その日を楽しみにしていてください。

 
Million Seller
A.P.Indy -- Million Gift (by サンデーサイレンス)
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