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2011 #10

キーンランド・セプテンバーセール・・・今年は池江先生と

 8月末に米国東海岸を直撃したハリケーン・アイリーン。レキシントンではその後も低気圧に覆われ、雨が5日間ほど続いたそうです。私の滞在中はいつもながらお天気に恵まれましたが、ちょっと聞いてください。こんなこと初めてです。

 今回は日本の航空会社ではなくアメリカンエアラインを使いました。日本のきめ細かいサービスに慣れている私にとっては、あちらの方々は無愛想な上に超スロー。食事も口に合いませんでした。シカゴでの乗り換えが便利ということで選んだのですが、到着時間にたくさんの便が重なって入国審査は長蛇の列。通関に1時間半もかかったので、レキシントンへの乗り換えはギリギリでした。そのせいなのか、シカゴで積まれたはずのスーツケースが到着しない・・・。時刻は夜の10時過ぎ、疲れ切って仕方なくホテルに向かいました。
「はぁ、明日の朝は髭も剃れず、下着の替えもないのか・・・」
何がまずいって、翌朝には池江泰郎・元調教師と合流することになっていたのです。

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 「突然だけど、キーンランドに一緒に連れて行ってもらえますか?」
と池江先生からお話があったのは出発の1週間前でした。「是非!」と快諾したものの、失礼ながら先生は70歳。セリ場では毎日、朝から夕方まで歩き回ります。その上、私はせっかち・・・。無理はさせられないし、ランチも厩務員食堂のハンバーガーというわけにはいかないだろうなあ・・・。

先生はとにかくお元気!
 ・・・というのは全くの取り越し苦労でした。チャンピオントレーナーを甘く見てはいけません。むしろ例年より多くの馬を見て歩き回ることになり、こちらが疲れてしまったくらいです。
「僕はね、田舎で育ったから山歩きには慣れているんだよね。足腰は丈夫だよ。それにね、3月からトレーニングジムに入会して、体力維持に努めているからね!」
という先生の足の筋肉には驚きました。
「家族に、『お父さん、せっかくの機会だからマチュピチュに行こうよ』って言われてね。家族で世界遺産もいいかもしれないけど、僕は山歩きは小さい頃にいっぱいしたから、馬見て歩くほうがいいんです。
お昼はトラックキッチン(厩務員食堂)でかまいませんよ。何でもOKです。ディープと一緒にフランスに行ったときは一か月半の滞在だったから、何でも食べました」
世界遺産より馬だなんて、池江先生らしくて素敵ですよね。

 いつもセリで見たい馬は前もって名簿でチェックしていきますが、実際に見て歩きながら見つける馬もいます。
「あ、この馬いいよ。見せてもらおう」
と先生の目に留まったのは#307の牝馬でした。血統を見ると、父Bernardini、母Silk n’Sapphire 。姉Shared Accountは昨年のブリーダーズカップ・メア・ターフの勝ち馬です。ただ、当歳の頃からこの馬を知っているという獣医の話では、右前の骨が手術の甲斐もなく変形しており、「競走馬としては一か八か」とのこと。私たちは競りませんでしたが、終わってみれば120万ドルの値がつきました。繁殖としての価値なのでしょう。競走馬としても姉同様の活躍ができるといいですね。その他、池江先生の評価が高かった馬はすべてよい値がついていました。さすがです。

米国のホースマンたちの間でも池江先生は有名です

 セリ以外には、種馬を見に行きました。そのうちの1頭がテイラーメイド・ファームのUnbridled’s Song。池江先生とは縁の深い馬です。
「この馬が日本人オーナーにセリ落とされた時、オーナーと一緒にいました。雄大な素晴らしい馬で、きっとケンタッキーダービーを勝てる馬だと。日本円で1億6000万円でした。その後、脚の骨が少しだけ飛んでいることがわかり、考えた末キャンセルしたんですが、もし日本で走らせる場合は僕に預けてくれると言ってくれていました。その馬がこんな立派な種馬になったんですね」
ケンタッキー・ダービーこそ5着でしたが、Unbridled’s Songはブリーダーズカップ・ジュヴェナイル、フロリダダービーと2つのGTを勝ち、種馬としても優秀な後継をたくさん送り出しています。私も本株を所有しています。もしあの時、そのまま日本人オーナーが手に入れていたら、池江先生が手がけることになっていたのでしょうか。


Unbridled's Songと

 ウィンスター・ファームのBellamy Roadは今、私が注目している種馬です。今シーズンまで、別の小さな牧場に繋養されていましたが、初年度となる昨年、今年と続けて産駒が重賞を制覇。今年はGIと2歳重賞を含む3頭の重賞勝馬を出しており、ウィンスター・ファームに移動した今後はさらに期待が膨らみます。現役時にGIウッドメモリアルSを17馬身差で圧勝したパワフルで豪快なイメージの通り、黒っぽくて、間近で見るととても迫力があります。先生も及第点を付けて下さいました。今年は米国にいる当場の繁殖にも種付けしました。どんな仔が生まれるか楽しみです。
 ウィンスターのオフィスでは、池江先生が昨年のケンタッキーダービー馬スーパーセイバーの優勝カップを手に記念撮影。「日本の馬もこのレースを勝たなきゃなあ」とつぶやいておられました。調教師を引退されても常に挑戦する気持ちを持ち続けていらっしゃいます。


ケンタッキーダービーの優勝カップです!

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 先生は常々「我慢と辛抱。だから今の私がある」とおっしゃいます。ディープインパクトも先生の存在なしには語れません。馬に関わる者として、人として、とても尊敬しています。今回のセリでは、一緒にたくさんの馬を見ることができて、大変勉強になりました。またご一緒する機会に恵まれることを楽しみにしています。

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