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2014 #11

初めての「購買馬ゼロ」

 11月初旬は米国の繁殖馬セールに行ってきました。新しい血を導入するため、25年通い続けてきたセリですが、初めて何も買わずに帰ってきました。

 一言でいうと、高かったです。
 まず売り手が強気でリザーブが高い。GT勝馬の肩書きがあっても、馬体を見た瞬間に候補から落ちる馬が結構いる。みんなが数少ない良い馬に集中して値段が上がる。加えて一気に進んだ円安です。
 それでも「よし!行ってやろう!」と思わせてくれる馬、まさに一目惚れのような出会いがあればよかったのですが、すでに日本にいる繁殖の質と、来年競馬から上がってくるOP馬たちのことを考えると、今回はあえて海外から持ってくる価値があるだろうかと問わざるを得ませんでした。

 アメリカの景気は上昇気味なのか、そこまで出せないなと思える馬にも相当の値段がついていました。最終的に何頭か候補を絞り、この市場ならミリオン超えも仕方ないと覚悟していたら、どれもこれも200〜300万ドル近くまで行ってしまうのですから、手が出ません。

 それなら、最後の候補、当歳牝馬はどうだ!と挑んだのが父Tapitの当歳。母Serena’s Cat(母の父Storm Cat)、曽祖母にSerena’s Songを持つ名血です。繁殖になるまでの歳月を要しても、仮に競馬は不出走に終わろうとも、価値のある1頭だと思いました。事前に獣医検査も入れました。その時点での当歳の最高価格は85万ドルでしたし、同じ父Tapitの牝馬が75万ドルでしたから、100万ドルまでなら行ってやる!と思っていたところ…。

 意外に低い価格からセリが始まって、上がり方も小さいので、これなら行ける!と私が60万ドルを打ったその瞬間です。価格表示が一気に100万ドルに跳ね上がりました。
「!?!?」
はじめは表示の間違いかと思いました。ところが110、120…とどんどん上がっていくのです。思わずイスにひっくり返るように倒れ込んだ私に、後ろの席の方も私のビットを取っていたスポッターも笑っていました。私も笑うしかありませんでした。
 一方でセリは真剣勝負が続いており、その当歳はなんと300万ドルでハンマーが落ちました。北米の当歳市場最高価格を記録。ここまでくると充実感というか、清々しさというか…えらい馬を狙ってしまったものですが、悔いなしです。

 Tapitの種付料は、今年の15万ドルから、来年は一気に30万ドルに上がるそうです。それがセリ開始の挨拶に交えて発表されたことも、市場を盛り上げた一因でしょう。事前に来年も15万ドル据え置きが発表されていたWar Frontも市場の立役者です。

 数日かけて下見をしてもなかなか食指が動かないというか、選択眼が厳しくなってしまったのは、2009年に購買したレディジョアンの存在が非常に大きいです。現役時は11戦6勝、GTアラバマSを勝ち、クラシック戦線からブリーダーズカップという王道を行きながら3着を外したのが、BCディスタフの4着1回のみ。購買当時は半姉に重賞勝馬が1頭でしたが、その後デビューした半弟がプリークネスSなどGTを3勝、半妹も重賞を2勝しました。景気が落ち込んでいた時期だからこそですが、このような馬を160万ドルで買えた経験があるので、今年のセリで150万ドルを超えていく馬たちを、どうしてもレディジョアンの実績や血統と比較してしまい、買い時ではないと判断しました。

 繁殖牝馬のレベルアップを目指して、私が海外セリに通い始めてから25年。初めて何も買いませんでしたが、それは血統・成績・馬体を比較しても、これなら今いる馬あるいは来年上がってくる馬のほうがいいと思えるまでに、牧場の繁殖の質が上がったということなのだと思います。

 11月は生産馬が中央競馬で15勝を挙げました。地方では川崎代表として出走したドラゴンエアルが水沢の重賞ダービーグランプリを制覇。12月は2014年最後の直線、2つの2歳GTがあります。馬も私もスタッフも、一気の追い込みでゴールを目指したいと思います。
 なお、6年に渡って毎月1日に発信させて頂いていた当コラムですが、この回をもちまして、来年より不定期更新という形にさせて頂くことにしました。

 皆様もお身体を大切に、良い年をお迎え下さい。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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