日本馬の活躍がめざましかったドバイワールドカップデー。
生産馬が出走したわけではないけれど、じつは私も、その片隅にいたのです。ドバイワールドカップに出走するCalifornia Chrome(カリフォルニアクローム:以下クローム)のシェアホルダーとして…。
クロームに出会ったのは昨年9月のキーンランド。セプテンバーセールの際にTaylor Made Farm(以下テイラー)に預けている馬たちを見に行ったときでした。2014年に米国の年度代表馬と3歳牡馬チャンピオンの称号を得たクロームが、引退後にテイラーで種牡馬入りすることが決まったのは昨年7月。まさかその現役チャンピオンが休養に来ているとは思わず、「見る?」と言われてびっくりしました。昨年3月のドバイワールドカップ2着以降、脚の故障によりなかなか計画通りに競馬を使うことができなかったクロームの左前肢には痛々しく包帯が巻かれていて、体も太め。ですが、放たれるオーラは「ものすごい」という表現がぴったりで、顔つきもキリッとしており、今にも走り出しそうな勢いが体の中から溢れ出ている、そんな感じでした。
※カリフォルニアクロームは育成時代にもテイラーで過ごしたことがあるそうです。
昨年9月、テイラーメイドファームにて
これはすごい馬だと見入る私に、テイラーがキープしているシェアのひとつを持たないかと提案してくれました。引退後の種付権利、さらに現役の間の権利も含まれ、半年後のドバイを目標にしているとのこと。その時点でまだ休養中の馬ですし、競馬なので何があるか分かりません。が、即答しました。
年明けの復帰戦を無事、危なげなくクリアしたクロームは、1月末にドバイへ移動。現地で一度使ってから本番に挑むことになったのですが、そのハンデ戦で背負った斤量がなんと60キロです(他馬は53キロ)。勝つのは想定通り(楽勝でした)としても、その反動はいかに…。
私がドバイ行きの航空券を手配したのはレースの2週間前でした。現地からテイラーのフランクがくれる報告メールには連日「Great!」 が並び、結びは合い言葉の「GO CHROME!」。フランクたちがどれだけ楽しみにしているかがわかったし、「ドバイに来るならまかせろ」と言ってくれたので、思い切って飛ぶことにしたのです。飛行機は残り1席という状況でしたが、本当に行ってよかったと思います。
レース前日、カリフォルニアクロームと。
真ん中はテイラーメイドファームのフランク・テイラー氏
メイダン競馬場の厩舎で再会したクロームは、翌日に大レースを控えているのが信じられないほど、のんびりと優しい雰囲気で、昨年とは別馬のようでした。前走の反動か、少し馬体がさみしく感じられたのですが、翌日の装鞍所ではまた別馬に。パワーがみなぎり、他馬を圧倒していました。
陣営の希望に反して、レースは12頭立ての11番枠。スタートでは好位につけるも、案の定、外々を回らされる不利がありました。しかし直線に向くと、ケタの違う走りでした。しかも、レースをご覧になった方は気づいたでしょうか。じつはスタート直後に鞍ずれしてしまっていたのです。馬上インタビューの前に騎手が下馬して馬装を整えましたが、翌日の新聞に大きく載ったゴール前の写真はいかに鞍がずれていたかの図説入りでした。並の馬ならばレースどころか、暴れ回っていてもおかしくない状態です。それでも圧勝するクロームの強さに改めて感服しました。我々のもとに戻ってきたクロームは落ち着き払っており、まったく何もなかったかの様子です。大騒ぎをしていたのは関係者ばかりで、馬自身は涼しい顔をしてウィナーズサークルに立っていました。やはり走る馬はオン・オフの切り替えをはっきりつけられるのだと、改めて感じさせられました。
また、自分が共有馬主の立場になって、いろいろな人と出会い、喜びを共有できることの素晴らしさを実感できたことも今回の収穫のひとつです。もちろん、再びこの舞台に来るときは千代田牧場の生産馬で!
クロームの次の目標は、3歳時にハナ差、クビ差の3着に敗れたブリーダーズカップクラシックです。そこではどのような走りを見せてくれるのか、種馬になったらどんな配合をしようか、どんな馬ができるのか、楽しみは尽きません。今回ともに祝杯を挙げることができた関係者の方々との再会も楽しみです。これも25年間、米国のセリに通って繁殖牝馬を繋養し、テイラーと縁あってずっと一筋できたおかげだと、ご縁に感謝するばかりです。
上段左:フランク、エスピノーザ騎手と。  
上段右:レース前、装鞍所でのカリフォルニアクローム
中段右:クロームを管理するアート・シャーマン調教師
ラクダのポロ競技
1頭に御者と木槌を操る係の2人が乗っています。
ラクダのレースもあり、結構なスピードが出るそうです。