ホエールキャプチャ当歳のこと

 ホエールキャプチャは4月25日の夕方、キングカメハメハの鹿毛の女の子を出産しました。お産した瞬間からあいかわらずの子煩悩ぶりを発揮し、見守ったスタッフを和ませてくれました。ご報告が遅くなりましたのは、残念ながら生まれた仔が「健康」でなかったことが理由です。

 初仔の兄と同じように、この女の子も生まれて30分ほどで立ち上がりました。顔つきも立ち姿もりりしく、またいい仔が出てくれたと安堵したのも束の間。その夜、当直スタッフから報告が入りました。飲んだ乳が鼻から漏れるというのです。翌日には喉がゴロゴロと鳴り、誤嚥性肺炎を起こしていたので、クリニックで検査してもらいました。

 「先天性食道狭窄症」。クリニックのベテラン獣医でも初めての症例ということでした。人間では数十万人に一人のまれな病気だそうです。食道の一部が狭くなっていて、飲み込んだものが詰まりやすい。ホエールの場合は食道に入り込んだ気管の軟骨がその邪魔をしているようで、その上、食道の筋肉の蠕動運動が機能していない。つまりたとえ狭窄を改善できたとしても、食べたものをうまく胃に送り込むことができない。さらに食道壁に憩室というくぼんだ空間ができており、そこに飲んだ乳がたまっていたことが、麻酔をかけた瞬間に鼻から大量の乳が漏った原因のようでした。
 誤嚥や食べ物の詰まりは肺炎などの感染症を誘発します。今年すでに米国で生まれた1頭が、先天性口蓋裂のためうまく乳が飲めずに肺炎となり、短い生涯を閉じていました。 。

 クリニックの獣医と話をしながら、ほぼ望みはなく、決断を迫られているのだろうことはわかっていました。ですが、なんとか経鼻カテーテルを通してもらえるよう嘆願しました。クリニックも最善を尽くしてくれ、親仔は一緒に牧場に帰ってきました。

 それから毎日の高タンパク補液と2時間おきの経鼻哺乳が始まりました。何か食べてしまい誤飲することのないように、仔には常時口カゴが着けられています。この口カゴはスタッフが編み、さらにベテランのパートさんがマジックテープで簡単に脱着ができるよう工夫してくれました。ホエールのすごいところは、お乳の出なくなったおっぱいを仔が口かごを着けたままつついても、ひとつもいやな素振りをせずに見守っていることです。本当に立派な母です。

 救いを求めて海外の文献にあたってみましたが、先天性の当歳の症例はどれも予後がよくありません。2週間後、いつまでもこの状態ではいられないと覚悟を決めて、クリニックに行く前にお母さんと一緒に青草の食べられるところに出してやりました。仔は草を一本だけ食みました。そしてクリニックで命綱だったカテーテルが外されました。

 この先はいつ誤嚥や詰まりによる感染症や潰瘍が起こってもおかしくありません。そうなったら最後の決断をしようと覚悟を決めています。それでも、スタッフの懸命の努力の甲斐があり、最初はシリンジで何本にも分けて飲んでいたお乳を500cc哺乳瓶で一気に飲めるようになり、蒸してやわらかくした飼い葉を食べられるようになりました。食欲旺盛で、形のなかったボロがすこしずつ固形物に変化してきました。誤嚥を示す喉や肺の異音は今のところありません。パドックではお母さんのまわりを飛び跳ねるほど元気いっぱいです。隣の放牧地の親子が駆けている様子をじっと見つめ、そっとわが子に目をやるホエールの姿は切ないですが、少しでも親子の貴重な時間をのばしてあげられたかなと思います。

 予断を許さない状況で、どこまで生きられるかわかりません。でも今は、当歳の目にみなぎる力を信じて、奇跡にかけてみたいと思っています。



外見からはまったく疾患があると感じさせません。


黄色いのが口かご。ミルクの時間もボウルをひっくり返す元気さです。